フリーランスとして働き始めるにあたってハードルが高いのは、実はフリーランスの仕事自体よりも税金の仕組み等を理解し、一番お得な方法を選択することです。
フリーランスを始めたばかりのうちは収入が低く、安定した家族の扶養に入ることを検討する人もいます。
この制度をうまく利用できれば駆け出し期間に金銭面の心配が少なくなります。
そこで、フリーランスを始めたばかりだからこそ知っておきたい、扶養制度について解説します。
Contents
そもそも『扶養』とは
扶養とは大まかに表現すると、自分で生計を立てられない人の生活を他人が援助するというものです。
制度としては税法上の扶養と健康保険上の扶養の2種類が存在します。
税法上の扶養
税法上の扶養というのは、一定の基準を満たす場合に納税者の所得税や住民税が控除されるというものです。
控除金額は扶養家族の人数や年齢によって異なります。
日本の「所得税法」では、扶養の対象(扶養親族)になる人を次のように定義しています。
三十四 扶養親族 居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法(昭和二十 二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第六条の三第一項(定義)に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第十一条第一項第三号(市町村の採るべき措置)の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその居住者と生計を一にするもの(第五十七条第一項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、合計所得金額が三十八万円以下である者をいう。
<中略>
文中の「居住者」というのは税金を納める人で、上の例でいえば「父親」に当たります。また、19歳以上23歳未満の者を「特定扶養親族」、70歳以上の者を「老人扶養親族」と定めています。まとめると、以下の条件を全て満たしていることが条件となります。
・居住者の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族(いんぞく)で、配偶者は除く)、または都道府県知事から教育を委託された児童(いわゆる「里子」)、または市町村長から養護を委託された老人
・居住者と生計を一にしている
・年間の合計所得金額が38万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
・青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支給を受けていない、または白色申告者の事業専従者ではない上記の条件を満たしている者は控除対象の「扶養親族」となり、居住者は「扶養控除」として一定額の所得控除を受けることができます。つまり、扶養親族がいる人は、税金が安くなるということです。
引用:マイナビ
健康保険上の扶養
健康保険上の扶養というのは、健康保険の加入者の扶養家族が一定の基準を満たす場合に、追加の支払いなしで健康保険給付を受けられるというものです。
国民健康保険では扶養という概念はありませんが、この社会保険の健康保険には扶養という制度があります。扶養には、「生活できるように世話をすること」という意味があります。
健康保険では、この扶養手続きをすることによって条件を満たす家族を、健康保険の扶養に入れることができます。これは、健康保険の被保険者である従業員のために事業主が手続きを行うことによって、従業員の家族に保険証が発行されて、家族が健康保険を使うことができる制度です。
引用:Airレジマガジン
ちなみに、納税者が国民健康保険に加入している場合はこのようなメリットはありませんので、注意が必要です。
会社員とフリーランスの『扶養』の違い
上記の定義を基に、会社員として会社に雇われて働く場合(主にパート等)とフリーランスとして働く場合(個人事業主)の扶養の違いを検討してみましょう。
税金面
会社員の場合、年収が103万円をこえなければ所得税法上の扶養に入ることができます。
103万円の内訳は、38万円(扶養に入る給与所得上限) + 65万円(給与所得控除)となっています。
扶養に入る給与所得上限は38万円と低いですが、会社員は給与を受けており、給与所得控除を自動的に適用されるため、扶養に入ったままで103万円まで稼ぐことができるのです。
それでは、フリーランスは会社員よりも不利なのでしょうか。
実はフリーランスの場合も103万円まで稼ぐことができます。
103万円の内訳は、38万円(扶養に入る給与所得上限) + 65万円(青色申告特別控除)となっています。
フリーランスの場合、会社員と違って当然に103万円まで扶養で稼げるのではなく、確定申告のときに青色申告を行って初めて103万円まで扶養で稼げるのです。
面倒ですが、青色申告は必ず行うようにしましょう。
青色申告とは
青色申告とは不動産所得、事業所得、山林所得があり税務署の承認を受けた人が対象の制度で、複式簿記で記帳を行って税務署に申告を行うというものです。
青色申告を行わない人は白色申告を行い、その場合は単式簿記でもよいのですが、税法上の扶養に入ることを考えるなら青色申告に取り組むことをお勧めします。
複式簿記により事業を記録することは事業が上手くいっているのか、分析するうえで役立ちます。
今後フリーランスにじっくり取り組み、収入を増やしたいと考えている方は、税法上のメリットを除いても複式簿記で記帳を行うメリットがあるといえます。
青色申告について詳しくは下記の記事をご覧下さい。
保険面
会社員の場合、年収130万円未満であれば納税者の扶養に入れます。
特に細かい基準もないため、基準の年収を超えないように仕事の調整を行えば問題ありません。
フリーランスの場合、健康保険組合ごとにルールが異なるため、一律の基準を示すことはできませんが、基本的には会社員の場合と同様に、年収130万円を超えるかどうかが納税者の扶養に入れるかどうかの一つの基準になります。
ただし、各種経費を除いた収入で判断してよいか、必要経費を含んだ売り上げベースで判断しなければならないかというのは健康保険組合ごとに対応が分かれますし、厳しい健康保険組合では個人事業主は納税者の扶養に入れないということもあります。
各健康保険組合のルールをよく確認することが大切です。
フリーランスが『扶養家族』として認定されるには
では、フリーランスが扶養家族として認定されるためにはどのような条件をクリアすればよいのでしょうか。
扶養家族として認められる条件は税法上の扶養、健康保険上の扶養で異なり、会社の仕組みによっても異なります。
ルールを理解して、ルールに当てはまるような働き方をすることが大切です。
具体的な条件は以下に記載します。
扶養に入れる条件
扶養の制度について理解が深まったところで、納税者の扶養に入ることのメリットやどうすれば扶養に入れるのかという点を確認しましょう。
税法上の扶養の場合
前述のように、税法上の扶養に入る条件は収入が103万円を超えないことです。
さらに、フリーランスの場合は青色申告を行うことも必要です。
健康保険上の扶養の場合
前述のように健康保険上の扶養にはいる条件は健康保険組合ごとにルールが異なるため、一律の基準を示すことはできませんが、基本的に収入130万円未満であることが一つの基準になります。
健康保険組合によって方針が違うので、必ず確認しましょう。
扶養に入るメリット
納税者の扶養にはいることの一番のメリットは各種金銭的な負担が減るということです。
通常サラリーマンとして働いていると、税金や各種社会保険料が給与から天引きになっているため、税等の負担について考えることは少ないかもしれません。
ですが、収入によって異なりますが、通常のサラリーマンの場合、給料の3割程度税等で引かれてしまうという計算です。
ある程度収入があり、余裕があればこの負担でもなんとかやっていけますが、収入の少ないうちに3割を引かれてしまうとほとんど手元に残りませんね。
そのため、納税者の扶養に入り、なるべく家計の税負担を減らすことが重要なのです。
扶養から外れる条件
これまで見てきたように、収入が低い場合に大変助かる制度である扶養ですが、どのような場合に扶養を外れてしまうのでしょうか。
うっかり納税者の扶養を外れてしまったということがないように、扶養から外れる条件についてよく確認しておくことが大切です。
扶養から外れるデメリットとともに見ていきましょう。
具体的な条件
納税者の扶養から外れるのはどのような場合なのでしょうか。
自ら望んで扶養を外れることもできますが、通常扶養から外れるケースは扶養家族が扶養の金額基準を超えるほどの収入を得た場合だといえます。
扶養を外れたくないのであれば、前述の金額基準(所得税法上の扶養であれば103万円、健康保険上の扶養であれば130万円)を超えないように仕事を調整することが重要になります。
具体的な条件については変更されることもありますので、専門の機関に必ず問い合わせることをおすすめします。
扶養から外れるデメリット
納税者の扶養から外れることのデメリットは何といっても金銭的な負担です。
所得税法上の扶養から外れた場合、どのような人が納税者の扶養から外れるのかにもよりますが、納税者の税控除金額が100万円以上減り、家計の負担が増えます。
健康保険上の扶養から外れた場合も、高額な国民健康保険料・国民年金を支払わなければならないという点に留意する必要があります。
税金を支払うことは国民の義務ですので、払わなければならないぶんはしっかり払うべきですが、多く払ったからといって特にメリットがあるわけでおないので、扶養による控除等を利用し、なるべく節税を心がけることが賢いと言えますね。
結局どの位稼いだら扶養から外れた方が良い?
扶養は収入が多くない間、非常に助かる制度ですので、納税者の扶養に入れる間は自発的に抜けずに扶養に入っておくことがおすすめです。
そのため、自発的に扶養から外れることはおすすめできません。
ただし、扶養にこだわりすぎることで自分のキャリアを狭めてしまうのは大変もったいないことです。
扶養の範囲を超えないようにと考えていると、面白い仕事の機会があってもつかめないということがあります。
フリーランスとしての活動に集中し、工夫しながら仕事をしていく中で、扶養を外れてしまうのは当たり前のことです。
自発的に扶養を外れることを検討する必要はなく、仕事をしていく中で扶養から外れることになったら受け入れる、という姿勢で取り組むのが望ましいでしょう。
ただし、扶養の基準金額を微妙に上回ってしまったという場合には収入が増えたにもかかわらず、家計の金銭負担のほうが増えるということもあります。
家庭の状況を考えて扶養から外れるタイミングを検討するのがよいでしょう。
子供の受験や結婚式など、大きな支出があるタイミングにあえて扶養から外れるのは好ましくないと考えられます。
まとめ
ここまでフリーランスとして働きながら扶養に入ることについて見てきました。
今回のポイントについて整理すると以下のようになります。
- 扶養は生計を立てられない人を他人が支える制度
- 扶養には税法上の扶養と健康保険上の扶養がある
- フリーランスが税法上の扶養に入るには年収が103万円を超えないことと、青色申告を行うことが必要
- フリーランスが健康保険上の扶養に入るには基本的に年収が130万円未満であればよいが、健康保険組合によって方針が異なるため、確認が必要
- フリーランスとして働くなら、最初は家族の扶養に入って金銭負担を抑え、フリーランスの仕事が軌道に乗った段階で扶養から外れればよい
- 扶養に入ることを優先して仕事をセーブするのはもったいない
これからフリーランスとして活動してみようと思う方は、今回の記事をぜひ参考にしてみてください。